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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

しかし、資格に面倒な条件がたくさんあって、なかなか採用にならない。その金的を、マンは射とめたわけである。普通なら、飛びあがってよろこぶところだ。

ところが、マンの顔は当惑したように、眉がよせられている。

――都会。

――港。

――自由の世界。

――ブラジル。

せせこましい谷底の故郷から、ひろびろとした天地へ出たい。青春の血を騒がせる漂泊と放浪の思いは、すでに、早くから、絶ちがたい情熱となって、マンの胸に燃えている。どこに行っても、鼻先のつかえる狭い山奥、田や畠をつくっても、五段歩とつづけられる土地がない。母の兄、マンには伯父に当る人が、ブラジル移民で成功し、大農園を経営している。そこには眼のとどかぬところまで続いた農場があり、四季を通じて、自由な耕作ができるという。マンの空想は、はるかに海を越えて、ブラジルの天地にまで飛ぶ。

――まず、門司港にいる兄林助を頼って行き、そこで足場をこしらえて、ブラジルへ。

これが、マンの憧憬の構図であった。

大川時次郎の顔が浮かぶ。郵便局に勤めているこの青年を、マンも好きだ。村一番の男と思う。時やんも、マンを嫁にしたがっている。