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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

うどん屋も、顔見知りだった。

「玉井のごりょんかね。おそいなあ。もう、仕舞おうかと思うとったんじゃ」

「一時に仕舞うのは、早いじゃないの? いつもは、二時すぎまでもやっとるのに……」

「ケタイ糞が悪いけ」

「どうして?」

「角助の奴に、今、売りあげを、みんな、持って行かれてしもうた。さんざ、飲み食いした揚句の三八に。もう、これで、四度目じゃよ」

「警察にいうたら、ええのに」

「そんなことしたら、命がない。どうも、この土地は柄が悪いなあ。真面目な商売は出来やせん。暴力団が威張っとるし、このごろじゃあ、泥棒も増えた。わしも、もう、明日から商売が出来ん。資本をさらわれてしもうたけ、こっちも、泥棒でもしようごとある」

二杯の狐うどんを、マンと、もう一人の男にわたして、夜泣きうどん屋は、しきりに、愚痴をこぼした。

「「当り矢」さん」

「へい」

「これ、資本の足しにしませんか」

マンは、泥棒から返して貰った一円札二枚を、帯の間からとりだした。

「いえ、ごりょんに迷惑かけたんじゃあ……」

「かまいませんよ。困ったときは、おたがいですわ」

「そうですか。……そんなら……」

「当り矢」は、おしいただくようにして、それを受けとった。