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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
「なんちゅうこと、いうかね。正直な人間が、泥棒なんかに入るもんか。悪人じゃよ」
「いいえ、わたしには、その泥棒が悪い人とは思えませんでした。きっと、初めて泥棒をする人じゃったとでしょう。よっぽど、切羽つまることがあったにちがいありません。どうしても六円の金がないと、夜逃げでもしなくてほならんか、生きるか、死ぬるか、……そんな追いつめられた気持で、思いあまって、泥棒する気になったんですわ。それで、あたしも、お金をなんとか都合してあげる気になって、お姐さんのところに、借りに行ったとです」
「とぼけた話じゃなあ。泥棒にやるために、金を借りに行く者も行く者じゃが、帰って来るのを、てれっと待っとる泥棒も、泥棒じゃ。巡査を引っぱって来はせんか、という疑いの心も湧かんとじゃろか。近ごろ、間抜けな話を聞いたわ」
「お姐さん。この二円、余りましたけ、おかえししときます」
「十円のうち、泥棒に六円やって、どうして、二円余る?」
「夜泣きの「当り矢」さんが、強盗に逢うたというもんじゃけ、二円あげました」
「気前のええ女子じゃなあ」
ヨネは、ほとほと呆れた、という顔つきだった。
それから、また、二日経ったが、なお、金五郎は帰って来なかった。