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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
彦島を追われるとき、「なんでも屋」が餞別にくれた煎餅蒲団は、年が経って、幾度も綿を打ち替え、表の布を張りなおした。それが上下二枚あるきり、客用の蒲団を作るほど、まだ、家計に余裕がなかった。
「時やん、これにくるまって寝ておくれ」
マンは、厚い敷き蒲団の方を、時次郎に渡した。
「いんや、おれは蒲団なんか要らん。寒いこたない。ごろ寝するよ」
「夜は冷えるけ、風邪を引くばい。まあ、これを着んさい」
「ええというのに……」
二人が、蒲団を中にはさんで、押し問答をしていると、突然、ガタッ、ピシャッと、家なり震動するほどのはげしさで、障子が開いた。
マンと、時次郎とがびっくりして、ふりかえると、部屋の入口に、金五郎が突っ立っている。
金五郎は、団栗眼をひんむき、上歯で下唇を噛み、諸肌をぬいでいる。その右手には、短刀がにぎられ、左腕には、肩から二の腕にかけて、昇り龍の彫青が、青々と、浮きあがっていた。
「間男、見つけたぞ。二人とも、打ち斬ってくれる。そこへ、坐れ」
金五郎のすさまじい剣幕に、時次郎は、思わず、畳のうえに、膝をついた。坐った。
マンは、ぽかんとなって、眼を白黒させた。