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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

おれたちが、燈台沖までも出とるとは、まさか、気がつくまい。角助は、今日の荷役で、ドテラ婆さんに忠誠を示す、一番手柄を立てるつもりじゃろうが、あべこべに、大眼玉を食うぞ」

「ドテラ婆というのは、はげしい奴らしいなあ。誰かを殺そうという目安をつけたら、その相手の後の方に立って、合図に、右手をあげる。そしたら、子分が、その男を斬る。そんな話を聞いたよ。人間を殺すのを、大根か、茄子を切るくらいにしか、考えとらん奴ばっかりじゃけ、困るわい。ボーシンも、気をつけたが、ええばい」

「おれは、喧嘩は嫌いじゃけ、斬られはせん。斬られそうになったら、三十六計、逃げだすよ」

その金五郎の言葉で、笑い声が起った。

若松港内は静かであるが、ここまで来ると、さすがに、波が高い。防波堤には、白いしぶきがあがっている。燈台の真下になる暗い海上に、二隻の大伝馬船が浮き、舷側に、夜光虫を青白く光らせながら、パナマ丸の入港を待っているのだった。

一隻には金五郎、別の一隻には、「六ゾロの源」が、統率役として乗っている。煙草を吸う火のほか、明かりはつけていない。

金五郎の乗っている船の艫には、大川時次郎が、膝をかかえてしゃがんでいた。