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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

……そげなこた、どうでも、ええ。その書付を、よく見て、さっさと、永田組は引きあげれ」

「なんの書付や?」

「これです」

と、金五郎は、譲渡証を、永田に渡した。金五郎は、悪いところに、親方が来た、と思ったけれども、仕方がない。もし、永田が、それを認めると、大変なことになる。まさか、親方の譲渡証など角助が持っていようとは思わなかった。また、この日ごろ、現場に来たこともない親方が談判の最中に、姿をあらわすことなども、夢想だにしなかった。意外なことの連続だ。といって、満目衆視の中で、親方に姑息な智慧づけをすることも、許されなかった。

永田杢次は、うすい青罫紙を両手でひろげ、不審げな顔つきで、読んだ。ようやく白んで来た朝の光にあてて、透かしてみるように、天に向かって、高くさしあげ、小首を傾けた。

「こら、なんじゃ? 妙なもんじゃなあ」

と、呟いた。

それを聞いて、金五郎は、ほっとした。

角助は、いよいよ、顔をまっ四角に尖らせて、白濁した三角眼をひんむき、

「妙なもんちゅうことが、あるもんか。あんたが、ちゃんと、承認のうえ、自分で、署名して、判子をついたんじゃないか」