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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
一所懸命、働きます」
歌が出たり、踊ったり、賑やかに、気持よく、おそくまで騒いで、仲間は引きあげて行った。
大川時次郎は、独身者の飯代部屋に入れることにして、「六ゾロの源」が、つれて帰った。
杯盤狼藉のなかに、二人だけが残されると、まるで、半年も逢わなかった後のような気持で、金五郎も、マンも、ぽかんとした顔をつきあわせた。金五郎が帰った夜以来、パナマ丸の荷役に追われて、夫婦は、なにひとつ、ゆっくり、話す間がなかったのである。
時ならぬ御馳走の散乱に、七匹の猫が、それぞれの場所で、活躍している。
「マン、くたぶれたろう?」
いたわるような、金五郎のその言葉に、マンは、ぐっと胸がつまって来たが、
「いいえ、あなたこそ」
そういって、煙管を取りあげた。キザミをつめて火をつけ、一口吸ってから、夫に渡した。
無言で、金五郎は、それをおいしそうに吸い、蛾の戯れているランプの火屋を、じっと、見あげていたが、ふいに、その両眼から、ラムネ玉のような、大粒の涙が、タラタラタラと、あふれ落ちた。
マンは、びっくりして、
「あなた……?」
マンの眼に、パナマ丸の現場で見た、夫の不思議な涙の記憶が、よみがえって来た。