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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
涎のたれるほど、惚れ惚れする。白のままで置いとくなんて、ほんとに、もったいないわ」
「般若の五郎さんも、そんなこと、いうとったなあ」
「ねえ、彫んなさいよ。立派な男の紋章じゃないの」
「お京さん」
「あい」
「あんたが、彫ってくれるのかね?」
「勿論、そうよ。誰が、ほかの人に彫らせるもんですか」
「よし、彫ろう」
後には、生涯の禍根となり、そのときになって、どんなに後悔しても追っつかなかった彫青を、このとき、金五郎は、或る陶酔感をもって、肉体に刻印しようと、決意したのであった。
「えらい」
お京は、大仰に、賞讃の声をあげて、ニタッと、会心の笑みを洩らした。
その翌朝、まだ暗いうちに、二人の姿は、武蔵温泉から、消えた。
博多市を貫流する那珂川、春吉橋の畔、流れに面した小粋な待合の一室で、二人の奇妙な生活がはじまった。
まず、左腕から、昇り龍を彫ることになった。どこを旅するにも、お京は、道具一式を携帯しているらしい。お京は、下絵を描かない。ぶっつけに、白紙の腕に、彫って行く。右手に、小町針を数本、束にして持ち、左手に、墨をふくませた筆を持って、針を肌に突きさす端から、色を入れる。