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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
うすうす、金五郎もそれを感じていたので、境界線を作ったわけである。
しかし、狭い六畳の部屋に、若い男女が二人居れば、蒲団は、一つでも、二つでも、同じことだ。屏風の城壁など、なんの役にも立たない。
金五郎が眠っていると、ぶつかるように、お京が飛びついて来て、眼をさます。お京は白い襟のついた緋縮緬の長襦袢を着ている。鬘下にした髪からは、濃いビンツケの香が立ち、白粉と香水とのまじった官能的なにおいは、金五郎の鼻孔をくすぐる。
金五郎は、胸がどきどきして、
「お京さん、どうした?」
「鼠よ。鼠、あたし、大きらい」
そういって、金五郎へしがみつく。
おどろいた金五郎は、お京を突きのけるようにして、立ちあがる。部屋中をうろうろし、
「鼠はどこに居るんじゃ? 鼠なんて、怖くないよ。……シッ、シッ」
と、頓狂な恰好で、追い声を出す。鼠の姿など、どこにも見えない。やっと、別々に寝たかと思うと、「壁虎(やもり)が出た」といって、また、金五郎の方へ、出張して来るのだった。
ようやく、一夜が明けた。
どうやら、なにごともなくて過ぎたが、金五郎は、不思議な疲れかたをしていた。
朝食のとき、お京は、元気がなかった。