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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
こっちに、おいで」
紺の幔幕の内側から、声をかけられて、はじめて、我にかえったように、身体を廻転させた。幕をくぐって、中に入った。
「安五郎、今日は、なんぼか、酒を飲んでもええ。父が、許可してやる」
「井上金物商」は、目抜きの本町通りに店舗をかまえて、繁昌していた。
後に、玉井金五郎と生涯の盟友となって、吉田磯吉一派と拮抗した井上安五郎の、まだ若い胸の中に、このとき、なにかのはげしいものが、燃えあがったようであった。
金物商組合の一座は、五十人ばかり。家族子供づれで、賑やかである。芸者が四五人、胡蝶屋豆八という、小柄で、跛の幇間が一人、巡査も二三人、まじっていた。
一時はどうなることかと思ったのに、無事にかたづいたので、あらためて、酒盛りがはじめられた。
「玉井組というのは、なんかいな?」
若松に渡って日の浅い金五郎は、まだ、よく、街の人に知られていなかった。
「請負師かね?」
「それにしちゃあ、年が若かったが……」
「どこかの仲仕かも知れん」
「じゃが、面白そうな若い衆じゃったなあ」
そんな噂をしながら、酒を飲んでいると、中には、よく知っている者もあって、説明役を買って出た。