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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
それを、また、裏から、二階にあげた。武器である。
梯子をかけて、石炭を入れた小籠を、天狗取り荷役の要領で、十個ほど、押しあげた。この作業は、お手のものだ。燃料用に貰った粉炭が、裏の箱に入れてあった。
「奴等が入って来たら、こいつで、眼つぶしを食らわせるんじゃぞ」
「六ゾロの源」が、金五郎に悟られないように、小声で、指示をする。
戦闘準備は、整ったのである。二階の明かりを消し、息を殺して待った。
大川時次郎は、胸を、どきどき、させていた。彼の心は、恐しい矛盾のなかで、錯乱する。
(もし、玉井金五郎が殺されるようなことがあったら……?)
その空想は、今は、時次郎に取って、地獄である。日とともに、強くなる金五郎への信頼感と、なお、あきらめきれぬマンへの思慕とが、からみあって、時次郎を呪縛する。それは、パナマ丸のとき、舷側を、猿のように、ロオプを伝って登る金五郎を見て、
(落ちれば面白い。落ちて死ねば、なお、ええんじゃが……)
と考えたときとは、心内の変化が段ちがいであった。
今では、金五郎に心服して、死ねばよい、とか、殺されればよいとか、考えたこともなかった。