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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

面倒なので、金五郎は、無抵抗作戦に出た。

マンは、お茶入れに、立った。

「金さん」

急に、新之助は、坐りなおして、あらたまった顔になった。緊張の面持である。

「うん?」

「お前と江崎との喧嘩が、妙な風になって来たよ」

「妙な風?」

「どういうたら、ええか?……さっき、友田喜造の使いの者が来てな――この喧嘩の仲裁を、自分がやりたいので、中に入らせて欲しい。その仲直りの会場には、「飛鳥」を貸して貰いたい。吉田磯吉親分も、出席するかも知れん。……そういうんじゃよ」

「断ったら、ええじゃないか」

「一度は、断ったんじゃよ。そしたら、向こうで――友田喜造の顔をつぶすつもりか? それなら、それで、考えがある。顔に、泥を塗られて、黙っては引っこめん。……そんなことをいう。なにも、こっちは、友田の顔をつぶしたり、泥を塗ったりした覚えはないのに、……どうも、この、顔――という奴、この世界じゃあ、憲法みたいなもんでなあ……」

――顔。

仁侠とやくざの世界に打ち立てられた、黄金のピラミッド。顔が立つ。立たぬ。顔に免じて。顔をつぶした。つぶさぬ。――傲岸と、矜特とが作りだす頑固一徹の虚栄心が、歪曲されたヒロイズムとなって、男性的と錯覚される。