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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
自分が若かったら、入れあげる」といったところである。しかし、染奴がそれに煽動されて、急に、惚れたのではないことも、お京は知っていた。金五郎は、「飛鳥」には、自分の家のように出入りしていたから、染奴は、早くから、金五郎に思いをかけていたようであった。
二〇三高地髷に、染奴が結っているのも、今夜、このハイカラ頭で、金五郎の気を引こうという作戦らしい。また、よく似合った。
「染奴さん、待っててね。一緒に帰ろうよ」
「ええ」
そして、二人はつれだって、おナツの店を出た。
軽い汗ばみをおぼえるような上天気である。二人の下駄の音が、カラコロと澄んだ音で、青空の奥深くひびき登って行くようで、もう夏の気配がどこかに感じられた。一羽の鳶が、悠々と舞い、ときどき、笛のような声で啼く。
「染奴さん、ちょっと、話したいことがあるの。つきあってね」
「ええ」
若い染奴は、姉芸者として、お京には一目置いていた。従順である。
木柵でかこまれた町役場の横を抜けて、蛭子神社に行った。この古い由緒を持つ社は、石鳥居の下まで、洞海湾の波が来ていて、石段を洗っている。境内には、榎、杉、松、樟、などの大樹が、鬱蒼と繁茂して、昼なお暗い感がある。