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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
夜毎、ヤスという、白痴の大女に悩まされて、遂に、逃げだした。女彫青師のお京からは、博多で一度、若松に来てから一度、挑まれたが、逃げた。そうして、今、自分の女房から、逃げられた。抱腹絶倒したい。しかし、口辺に浮かぶのは、歪んだ、苦い、声のない、うす笑いばかりだ。
(死んだら、どうするつもりじゃったのか?)
ほんとに、一時は、死ぬかと思ったのである。マンに、殺す気のあるわけはあるまいが、過失ということがある。
マンにしてみれば、経験者であり、すでに一種の熟練工でもあるから、死ぬ筈のないことを、計算しての所業であったろうが、金五郎には、そんなことはわからなかった。
(よく事情をたしかめもしないで、こんな無茶するなんて……)
これまで、心の底から、信じあい、マンに貞操を立てて来た金五郎としては、女房の誤解と、嫉妬による暴力行為が、糞面白くない。考えていると、次第に、腹が立って来て、
(マンの奴がその気なら、こっちも……)
と、反撥的に、危険な思考におちいって行くのだった。
「用があるなら、お京さんのところに行きなさい」
と、マンは、いった。
「行ってやろうか?」
声に出して、そういってみて、(どんなことになったって、知らんぞ)と、マンが、そこにいるかのように、力みかえる。