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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
雨にびしょ濡れになっても、正義のためには、なに厭わんや、だ」
「急いでいますから……」
「まあ、待ちたまえ。志を同じゅうする者は、席を同じゅうすべし――じゃないか。同志、玉井君、君が、弾圧と迫害の中で、若松港汽船積中頭組合を作るというて、奔走しとることを、壮としとるんだよ。僕は、経験があるんだ。この街では、吉田派の傘の外で、なにかをやろうとすることが、どんなに、困難か。……友田喜造が、君を脅迫したことも、聞いたよ。だが、やりたまえ。神は、正しき者を守るよ」
「失礼します」
居たたまれなくなった金五郎は、耳をおさえるようにして、そこを離れた。
「おうい、玉井君、ちょっと待て。まだ、話があるんだ」
その声にもかまわず、走るように、急いだ。
立ち話をしているときに、友田喜造の子分が、果物屋の店先で、耳を傾けている姿を見たのである。いや、この狭い街では、全町が耳であるといっても、過言ではない。品川信健もそれを知らない筈はないのだが、この豪放な新聞社々長は、つねに、自分を守る正義の神を、信じきっているもののようであった。
吉田邸の門前まで到着したときには、汗があふれて、軽い動悸が打っていた。