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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

三人は、どうして自分たちの親分が、無茶な遠泳をしたかを知らない。それどころか、日ごろの水練上手を知っているので、いくらか疲れているのを見ても、格別、心配もしていなかった。追っかけて来たのは、別のことだった。

「早よ帰らんと、大時化になるちゅうて、中ノ島の漁師が話しよる」

それを告げに来たのである。

果して、夕刻ごろから、すさまじい突風を加えた大嵐になった。

玄界灘は若松の北方に位している。そのまた北方には、満洲があり、シベリヤがある。冬になると、北風の冷たさはお話にならない。しかし、夏でも、もっとも強烈な暴風はこの方角から吹くのを常とした。

昼間の上天気は仮面でもあったかのように、豪雨をまじえた北風は北九州の空を吹き荒れた。ときに、なぐりつけるように、風速二五メートルもの突風が、トタンの看板を飛ばし、屋根瓦をはぎ、掛け小屋を倒した。夜に入るにしたがって、雷鳴まで加わって、暗黒の中に、洞海湾は今にもくつがえるかとばかり煮えくりかえった。

「船を流すな」

闇のどこからか、金五郎の声がひびきわたる。声は風と雨とに消され勝ちだが、子分たちの耳には聞えた。

「大丈夫」