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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
すると、横から、松本重雄が声を落して、
「オヤジ」
「うん?」
「変な噂がありよるですよ。床屋で話しよったが、――玉井組が全員、「蛭子座」に坐るというなら友田組も全部坐って、なにかの因縁をつけて、今度は根こそぎ、玉井組をやっつけてしまう。……なんて、気をつけたがええです」
「またか。うるさいのう」金五郎は、舌打ちしたが、闊達に笑って、「勝手にさせちょけ。おれは一度死んだ人間じゃ。もう、どんなことが来たって、恐いことはない。どこまで彼奴等の無茶が通るか、こうなったら、根くらべじゃよ」
死の谷を抜けて来て、金五郎には、自分でもよくわからぬ、なにかの新しい力が、自分に附与された思いがしていた。後退するよりも、さらに前進する勇気が、身内に溢れている。
金五郎は、ようやく繃帯の取れた額に手をやった。横なぐりに叩きつけられた鈍刀で、頭の皮が帽子をぬぐようにめくれた。それをまた被せて縫ったところが、三日月型の大きな傷になっている。そこから、たくさんの血が流れ出たが、そのかわりに、なにか新しい元素のようなものが、注入されたようであった。
(もう、おれは、二度と死なない)