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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
埃を払って、右手にかかえた。麻裏草履の片方は、並木の横の水たまりに飛んでいたが、引きあげて、ぶら下げた。雫がたれる。気がつくと、泥棒はとっくに捕えられて、巡査に、手錠をはめられていた。交番のまわりに、黒山の人だかりがしている。金五郎は、そこへ近づいて行った。
「巡査さん、これを着せてあげてくれませんか」
左手のカバンを、交番所の中に置き、両手で着物をさしだした。
若い巡査は、きょとんとした顔つきで、
「それは、どうしたんですか」
「拾うて来たんです」
「この掏摸と、知りあいなのですか」
「いいえ、わたしは、たった今、九州から、東京へ着いたばかりの者です。そして、降車口で、この人から、懐中物を掏られました。……わたしの財布を持っていませんでしたか?」
「どんな財布です?」
「黒い革の財布で、止め金のところに、銀の小さな菊の花がついています。横が五寸くらい、縦は三寸ほどです」
「これですか」
奥の机の上に置いてあった財布を、巡査は示した。
「そうです」
「中には、どんな物が入っています?」
「間違いありませんから、かえして下さい。わたしはこういう者です。その財布の中にも、同じ名刺がある筈ですが、……」