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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
「皆さん、次は神保町でございます。お降りのお方、お乗り換えのお方は、お支度を願います」
どっと、車内に、笑い声がみなぎった。
新米車掌は、頭をかいている。
こういう調子なので、目的地まで、長い時間かかった。上京第一歩から懲りた金五郎は、掏摸を警戒して、懐中物の用心は怠らなかった。車中は身動きひとつ出来ない。
やっと、東京駅前着。
昨日の交番に行った。
「ここでは、そんなこと、わかりませんな。本署に行って下さい」
巡査に、うるさそうに、そういわれて、丸ノ内署を訪れた。
入口の裸ベンチで、長いこと待たされた。北九州の親分として、若松警察署に行くと、大びらで通る顔も、東京のまん中では、一田舎者にすぎなかった。おまけに、変な老掏摸などに面会に行ったので、若い警官から、胡散くさい眼で見られ、鼻であしらわれた。剣もほろろの扱いである。金五郎の左額には、なお、大きく、角助に斬られた刀痕が残っている。縫った後が三日月形にふくれ、額から頭の部分に、半分食い入っていて、そこだけ、いまだに頭髪が生えない。醜いというほどでもないのだが、それを不遠慮にじろじろと見る刑事もあった。