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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
金五郎が、筋骨隆々たる仁王像を感心して眺めながら、(この顔は誰かに似とるぞ)そんなことを考えていると、
「玉井親分、さあ、行きましょう」
般若の五郎から、うながされた。
「田舎者は、なんでも珍しいもんじゃから、……」
「もっと珍しいものがありまさあ」
観音堂の横を入り、「一膳めし」という赤提灯の出ている大衆食堂ののれんを潜った。どちらも大空腹であった。酒を一本ずつ取り、親子丼を食べた。一杯では足らず、お代りをした。ようやく人心地のついた思いである。
「そうでやすかねえ?……道後の湯から、もう、三十年、……へえエ、わからねえもんですなあ、……なあるほど、……」
般若の五郎は変りはてた金五郎の姿を見ては、幾度も、そんな述懐めいた、感歎の言葉を洩らした。しかし、どこか、わざとらしいところがあって、そのしょぼついた眼の奥には、なにか、蛇に似た狡猾な光がちらついているようだった。
「五郎さんも変ったので、おどろきましたよ。じゃけど、逢えて、ほんとにうれしい」
金五郎は、すなおな気持で、それをいった。
勘定をすまして出た。
「こっちで、へい」
五郎にみちびかれるまま行くと、瓢箪池の横に出た。