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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

……勝則、帰りに、源公のところにでも寄って、このスズキを肴に、口なおしに、一杯、やるか?」

「はあ」

いつも、謙虚な気持でいることを努めている金五郎にしては、思いあがったに似た啖呵であった。若いころ、門司で、上海コレラ騒動のとき、市役所の役人に反抗した天の邪鬼は、年をとっても、お上嫌いの、「いつもの癖」になってはいたけれども、それが、思いもかけぬ、突発的とはいえ、自分の顔をふりまわす傲慢さで、表現されたとは、われながら、意外のことであった。東京の警察署で、田舎者として、取るに足らぬ扱いを受けた鬱積が、潜在意識のいたずらで、反動的に、あらわれたのであろうか。

(おれは、小人物じゃ)

一度吐いた言葉は消えない。金五郎は、気が滅入るばかりだった。

勝則の方は、また、別の衝撃を受けていた。この街の多くの親分と称されているボスたちのように、父が、「玉井金五郎を知らんか」という種類の、啖呵を切ったことを聞いた記憶がなかったので、

(父は、おれと光丸とのことで、気がむしゃくしゃしているのだ)

そんな風に解釈して、苦しかった。

中ノ島の横まで、船が来たとき、

「原田雲井君のところへ、行ったってなあ?」