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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
もちいと研究してから、やりたいことをやれ。……ちゅてな」
いうだけのことをいってしまうと、栗田銀五は、相変らず、両手を帯にさしこんだままの恰好で、市役所の方角に去って行った。ひょろ高い着流しの後姿が、妙に、飄々としている。幾度となく白刃の下を潜って、人を斬り、人からも斬られた男とは思われない。
栗田の姿が消えてしまうまで、ぽかんとした顔つきで見送っていた豆八と光三とは、顔見あわせると、どちらからともなく、けたたましく笑いだした。窮鼠のような哄笑だ。
「この若松ちゅう街が」と、豆八はおどけた恰好で、口真似して、
「どげな街か、知っちょるか?……」
「知っちょる、知っちょる」光三も、ふざけた語調で、「アメリカの西部劇のような勇ましい街じゃ。馬が居らんだけさ」
二人が、「猫婆さん」の家の方角に歩いて行くと、前方から、玉井金五郎、井上安五郎、原田雲井の三人が、話しながら、やって来るのが見えた。
出あうと、立ちどまった。両方から、親しげに挨拶を交した。
港から吹いて来るしめっぽい東風が、二階の窓から、石炭の煤くさいにおいを送りこむ。五月に入ってからも、雨模様の日が続き、なかなか五月晴れの青空があらわれない。