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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

大小船舶の碇泊している洞海湾は、どんよりした曇天の下で、灰色の水をたたえ、時に風をまじえて波立った。

二階の正面に「OYADAMA SHOKUDO」という、ローマ字の看板がかかげられてある。緑のペンキで塗られたレストランだ。

「どうも、天気がカラッとせんなあ」

今にも降りだしそうな空を見あげて、布袋腹の原田雲井がいった。顎を包んでいる長髯をなでまわす。

「昨日のメーデーは、雨の中でやったところが多いらしいね」

井上安五郎も、金魚の眼をひっぱりあけるようにして、空を仰いだ。

原田は、煙草に火をつけて、一服吸ってから、

「天気が悪いと、人間の気持もさっぱりせん。帝国議会も、大層、荒れたらしか様子じゃね。今度の五十八議会は、はじめから、気が立っとったばって、予算総会になってから、また、大喧嘩はしちょる。若松の市会議員も、あんまり柄が良うはなかばって、代議士の方は、も一つ、それに輪をかけて、悪かごたる。国民のことなんて、どげんでもよかとじゃな。党利党略、嫉みあい、縄張り争い、愚劣な罵詈讒謗、低級な弥次、わざとの喧嘩、議事規則の無視、あげくの三八にゃ、ゴロツキでもやらんげな、気違いじみた取っ組みあい、乱闘騒ぎ――さぞかし、吉田磯吉親分の働きどころが、多かったろうや」