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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

帰って来ると、一人残らず、「社長さんに入れて来ました」と、報告した。よろこんだ河村は、最高点疑いなしとして、仲買人たちに礼を述べ、大いに歓待した。

開票の結果、一票しかなくて、落選した。

選挙事務長がかんかんに怒りだした。

「どいつも、こいつも、嘘つきばッかりじゃ」

ところが、その一票は、候補者自身が自分に入れたものであった。……

「このため、魚市場騒動が起ってな、怒った社長が首切りをやったり、闇討ちで怪我人が出たり、しまいには、訴訟沙汰になって、裁判をごたごた長いことやっとったよ。……河村利三郎は、今度は、民政党から、市会に出るらしいが……」

「人間が信用出来んようになるだけでも、あたしは、選挙が嫌いやわ」

マンはためいきをつくようないいかたをして、煙管で、煙草を吸った。

「そのかわり、信用の出来る人間というものも、選挙でわかるよ」

「それはそうかも知れんけど、……候補者だって、日ごろは威張りくさって、道で逢うても、見むきもせん癖して、選挙が近づくと、急に、にこにこと、愛想がようなる。ペコペコ、頭を下げて――どうぞ、清き一票を、わたくしに。……そして、当選したら、手のひらをかえすように、また、知らん顔。