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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
(じゃが)と、金五郎は、不意に、眼を怒らせる。(息子の勝手と、裏切りとを、許すわけには行かぬ。藤本との縁談を成就しなければ、大庭の親方に対して、顔が立たん。申しわけない。勝則だって、一度は委せるといったんじゃから、男の約束を履行せねばならん)
金五郎の決意は堅かった。
勝則は手を洗ってから、出て行った。
「ここへ置きますよ」
庭石の上に、コヨが下駄を揃えた。
「ありがとう。……おコヨさん、これ」
「ええのよ、そんな心配せんでも」
「まあ、僕の気持じゃけ」
「そうかね」
コヨは、勝則のさしだす紙包みを受け取った。
大島の羽織と着物を着ている若々しい青年の顔を、コヨはあらためて見なおした。柔和な面持ちのなかに、耐えがたい苦悩とともに、なにか、非常の覚悟のみなぎっていることが看取される。
勝則が暗い裏庭に消えると、金五郎が出て来た。
「おコヨさん、跡をついて行ってみてくれんか」
「心中でも、したら困るけ?……」
「そんなこたすまいけんど」
金五郎は、広間に帰った。
「やあ、親方、どこに行っとったかね。今夜は、親分の浄瑠璃を聞くのを楽しみにして来たんだ。一席やってくれ」
もうだいぶん酔っている三菱の労務課長が、牀柱のところから、手をあげて叫んだ。