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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
拍手が起った。
「やりましょう」
見台に似た台を取り寄せさせ、新聞紙で、即製の肩衣をこしらえて、金五郎は正面の座についた。舞台はない。太枠もないので、徳弥という芸者に、普通の三味線を持たせて、左に侍らせた。おどけた顔つきをし、頓狂な声色で、自分で、口上を述べる。
「東西東西、このところお聞きに達しまする浄瑠璃芸題『艶姿女舞衣』、語りまする太夫、玉井春昇、三味線徳弥、いよいよ、三勝半七酒屋の段、そのため口上、東西東西」
この芸題が馬鹿の一つ憶えのようになってしまった。若いころから、義太夫を好きで語って来たけれども、素質がなかったのか、大して上達もしない。本物にもならず、酒席の座興で、お茶を濁すのが関の山だった。しかし、金五郎は、語りながら懐旧の念に耐えなかった。昔、江崎満吉との喧嘩の仲裁宴のとき、「飛鳥」の舞台で、お京の三味線で、これを語った。その夜のさまざまの出来事は忘れられない。ふと、お京がいるかと、隣りをふりかえるような、妖しい錯覚さえ起すのであった。
「……今ごろは、半七ッあん、どこにどうして、ござろうぞ……」
と、眼を細めて唸りながら、どこにどうしているかわからないお京のことを考えている。