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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

殴ったといった方がよい。

原田は、びっくりして、突然、ゼンマイの切れた時計のように、鳴りやんだ。

「ドテラ婆か? たまげるじゃないか」

「涙を拭きなさいよ」川野ノブは、煮しめたような醤油色の手拭で、原田の頬と眼とをぬぐってやってから、「おれだって口惜しいよ。おれの応援した人は、みんな落ちたよ。若松という街は、こげなところさね。じゃが、原田先生――敗軍の将、兵を語らず。……なんにもいわんで、「六ゾロ」にでも行って、一杯、ひっかけるとしまッしょ」

「それがええ。それがええ」

誰かがそういったので、また、群衆は哄笑でどよめいた。

「ドテラ婆、まだ、戦いはすまん。大事な戦闘中に飲むのは、武士のすることじゃなか。わしが落ちたことはあきらめる。大将のことが気がかりじゃ。玉井さんのところへ、行ってみよう」

「そんなら、おれもお伴しよう」

どちらも、並はずれた巨躯の男と女とが、肩をならべて去って行く後姿に、街の人々は、さらに、ひとしきり、笑いさざめいた。たしかに、剽軽な姿である。

しかし、中には、同情者があって、

「そんなに、人を嘲るもんじゃないよ。天に唾して、自分で自分の顔を、汚すことになるかも知れんけんな」