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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
「あちらから、手紙を出します。急なことがありましたら帰ります。早稲田大学にいる吉井篤雄君のところを連絡場所にしときますから、……」
光丸と別れる決心をして、旅に出て行く息子のさびしげな顔を見て、マンは、胸が疼いた。涙が出た。
金五郎も、息子が哀れでたまらず、
「二三ヶ月でも、半年でも、好きなところを、旅行して来い。金は要るだけ送ってやる。今ごろは、北海道が大層ええちゅうけ、阿寒湖、洞爺湖、摩周湖、支笏湖、など、湖めぐりをして来るがええ。大雪山にも、まだ、雪が残っとるじゃろう。アイヌも珍しいけ」
三年ほど前、市参事会員だけで、北海道視察旅行をしたことを思いだして、そんなことをいった。
六月が過ぎて、七月が来た。
マンは、選挙のすむのを待って、夫に逢うといったお葉の消息のないのを、不思議に思った。
「飛鳥」に行って、君香に訊いてみた。
「なんや、おッ母はんが、たいそう病気が悪い、いやはってな、開票の次の日に、東京に帰らはったわ。おマンはん、あんた、お葉はんに逢いなはったんやてなあ」
「ええ、ちょっと……」
マンは、お葉と蛭子神社の境内で逢ったことは、隠さなかったけれども、話の内容については、極秘にした。