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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
その甘酸っぱい感傷は、えたいの知れぬ恍惚感さえみちびきだして、二人をいやが上にも熱しさせた。
障子は次第に白さを増して来た。雀の囀りが夏の朝の空気に、針をさすようだ。
数日後、勝則は、料亭「竹の家」を訪れた。熟考の果て、勇を鼓してであることはいうまでもない。敵前上陸のような気持だった。
茶の間に、案内された。
長火鉢の向こうに、辻木惣八が坐っている。色の黒い、皺の深い、普段から気むずかしげな顔は、さらに、不機嫌に歪んでいる。真鍮の鉈豆煙管で、煙草を吸うのにも、いらだたしげに、それをはげしく火鉢にたたきつけて、火を落す動作にも、内心の憤りが、掩いがたく、露出していた。
辻木夫人は、惣八よりも一廻り大柄だ。女角力取りのような身体を、夫のかたわらに置いて、かしこまっている勝則を、憎々しげに見下だしている。
隣室に、要之介がいて、この場のなりゆきをうかがっている気配が、明瞭だった。
和服姿の勝則は、正坐した膝に両手をのせて、静かに頭を下げた。
「光丸を、わたしに、下さいませんでしょうか」
「そんなことは出来んよ。あれは、ちゃんと、うちの息子の嫁に定めてあるとじゃけん」