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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

これ以上、まだ、あなたは、わたしらに、なにを堪えろというのかね? 若い男と女、惚れた脹れたの浮気はつきもの、一時の気まぐれとして、忘れてしまえば、ええじゃないですか」

「いえ、わたしは、けっして、そんな無責任なことで……」

「いくらいうても、同じじゃ」と、辻木が声を荒らげて、「もう、帰んなさい。一日そこに坐っとっても、百万べん頭を下げても、こればっかりは駄目じゃ」

「ねえや」と、夫人が、女中に「お客さまの下駄を揃えなさい」

「はあい」

取りつく島もなかった。

追い立てられるようにして、「竹の家」を出た。

力のない足どりで、黒板塀に添って行くと、曲り角にある勝手口のところに、姉の光三が立っていた。先廻りして、待っていたらしい。

「勝則さん、駄目やったらしいのね」

「うん」

「正面から行ったら、駄目に定まっとるわよ。それに、勝則さん、一言、あなたに聞かせておきたいことがあるわ。あなたは、まだ、お坊ちゃんじゃけん、すぐ人のいうこと信じるけんど、うちのお父さんやお母さんて、あなたの十倍も、百倍も、海千山千よ」

「そりゃあ、僕だって、知らんことはないけど、……」

「知らんことはない――なんて、なんにも知らん癖して。