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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
その言葉に、船の中に、明かるい笑い声が起った。喧嘩をしなくてもすんだ、という安堵感が、仲仕たちの憂鬱と緊張とを、解いていた。
「おい、タカさん、おれに、五十銭、奮発せえ。金さんを取りもってやるぞ」
艫の方で、からかう者があって、げらげらと、また、笑いが流れた。
マンひとりだけが、この笑いに同調せず、インド丸の甲板に立っている金五郎の姿を、またたきもせず、凝視している。
巨大な暗黒の中に、カンテラの光で浮き出ている金五郎の半纏姿は、マンの眼に、なにか、神々しいものさえ感じさせて、映った。いっぱいに瞠られた眼球に、潮風がしみて痛くなり、やっと、マンは、一つ、瞬きをした。
二千二百トンのインド丸の舷側に、石炭を満載した八十トン艀がつながれている。伝馬船をその艀に漕ぎよせると、仲仕たちは、ばらばらッと、飛びあがった。
「玉井、おおきに」
巨漢の助役は、艀の舷に立って、下から、インド丸の甲板に、声をかけた。
「ボーシン、そんなこた、どうでもええです。すぐ、持場について下さい。まだ、大村組は、棚を吊りよるところです」
「よし来た。……みんな、すぐ、かかれ」
仲仕たちは、敏捷に、あらかじめ定められた自分の部署についた。