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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

舌打ちをして、下唇を噛む。

そうすると、

――友田喜造。

最後に、きまって自分の前に突っ立つ、この宿敵の像。数箇所に刀痕のある、どす黒い顔に光る鳶のような眼が、ニタニタ、嘲笑するように笑っている。

「玉井、今度こそは、貴様のグウの音をとめてやるぞ」

そういっている女のような黄色い声が、はっきりと、聞える。

(どうしたら、よいのか?)

考えていると、金五郎は、泣きたくなって来るのであった。

マンは、毎日、金五郎の顔色を見ている。はがゆくてたまらぬらしい。すこしも進捗しないことを知って、

「お父さん、いっそ、ストライキをやんなさいよ」

そんなことを、いう。

或る日、もう日が暮れてから、金五郎は、不思議な様子で、帰宅した。

いつものように、チョッキの上に「玉井組」の半纏がけであったが、まるで、身体の中心をうしなったように、ふらふらしている。酔っぱらっているようでもあり、素面のようでもある。顔色は青ざめ、眼はとろんとして、どこを見ているのかわからない。しまりのなくなった唇はたれ下がって、白っぽい舌がはみ出ている。朝、出るときには被っていた帽子も、どこかに落して来たらしかった。