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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

ぎょっとして、友田は身体を引いた。クッションの柔かいビロードの安楽椅子が、深々と、友田の痩躯を包んでいる。身うごき出来ない。

「わたしは、射撃の名人です。絶対に外れっこはありません。そのつもりで、わたしの話を聞いて下さい」

金五郎の語調は、落ちついていた。

友田は、凝結したまま、口をきかない。赤黒い顔が、次第に、青味を帯びて行く。

「友田さん、あなたが知っとるとおり、わたしは喧嘩ぎらい、これまで、人に向かって、兇器をふりまわしたことはありません。これが一生にただ一度、そして、最後です。わたしは、あなたを殺します。あなたがいなくならなければ、この争議はかたづきません。あなたは、話しあいの出来る人じゃない。それは、あなたとつきおうた、この二十年間の経験で、わたしは、はっきりと、胆に命じました。もう、わたしは覚悟しました。裸一貫、ゴンゾから身をおこした玉井金五郎は、ゴンゾとして一生をすごし、ゴンゾとして終るのが、宿命です。今、数千人の沖仲仕のために、その数千人の沖仲仕の敵であるあなたを殺して、自分の一生を終るのは、本望です。あなたとしても、また、これまで多くの人々を苦しめ、今、また、飢餓に瀕して、喘いでいる沖仲仕を、死につき落そうとして居るとですから、そのゴンゾたちの恨みを一身にうけて、成仏するのは、きっと、本望