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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
金五郎は、プッ、プッ、と、両手のたなごころに、唾をはきこんだ。それから、親指を中に包んで、拳をにぎりしめ、猛然と、修羅場の中心に、おどりこんだ。
インド丸の船長をはじめ、船員たちが、出て来た。
「静まれ、静まれ」
必死に喚いたり、止めに入ったりしてみたが、効目はなかった。
金五郎は、あばれた。持って生まれた馬鹿力と、糞度胸と、小さいときから、ターザンのように、山から山、木から木を飛びまわった敏捷さと、いくらか囓った柔道と、草角力の大関までのぼったことのある、四十八手の裏表と――悲しみに似た、いいようもない憤りに駆りたてられて、金五郎は、ぶっつかる敵を、片はしから、甲板に転がした。何人かを、高い舷から、海に投げこんだ。
大男の助役が、大村組の、これも劣らぬ巨大漢に組みしかれて、咽喉をしめつけられている。三角眼を白黒させ、今にも、息が切れそうな、不景気な声を出している。
金五郎は、それを見たが、助ける気持は起らなかった。煙突にもたれ、唇を噛み、汗をふいた。
一人の敵が、そっと、金五郎に忍びよった。雁爪をふるって、襲いかかった。金五郎は、気づかなかった。