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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

と、誰彼に話していたという。裸一貫で、玉井組を結成した父は、この仕事に命をかけていたのに、昭和十七年、太平洋戦争勃発後、国家総動員法による企業整備のため、個人企業である玉井組は強制的に解散させられてしまった。巨大な権力と命令で、否応はなかった。父は歯を食いしばり、涙をのんで、「お国が勝つために必要なら仕方がない」といって、泣き言はいわなかったが、それ以後、父がめっきりと元気がなくなり、急速に衰えたことは明瞭に私たちの眼に映った。しかも、昭和二十年六月末、敵の空襲に備えるためと称して、父の一生の営為の成果である正保寺町の大きな家は、強制疎開させられ、わずか二日間で、跡かたもなく引きたおされてしまったのである。そのときも、父は、「お国が勝つためなら」と、同じことをいっていたが、そのさびしげな様子は見るに耐えられなかった。

『花と龍』三百二十四回目の原稿を渡してまもなく、私はヨーロッパに旅立った。アイルランドのダブリンで開かれた第二十五回世界ペン大会に出席し、イギリスのエリザベス女王戴冠式を見学した後、三ヶ月ほど、スペイン、モロッコ、フランス、イタリア等を経めぐって帰国した。