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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

それで幸田は」

総監もさすがに可笑しくなったと見え、品のいい唇をほころばし、

「警視庁は交通整理をするばかりが能じゃありませんよ、局長。……幸田の野郎が赤坂の妾のところに潜伏しているのを突止めたという報告がさっき来ましたから、今ごろはもう溜池署の豚箱に放り込まれた頃でしょう」

といっているところへ電話のベルが鳴る。総監が受話器を取上げて応対していたが、すぐ局長の方へ振返り、

「幸田は挙げられましたが、あなたに逢わせろといって暴れて手に負えぬそうです」

局長はまたクワッと嚇怒し、

「なになに、俺に逢いたいと! よし、逢ってやる。大目に見ていればいい気になって、今度こそあの赤新聞の息の根を止めてやる、すぐ、直ぐ、直ぐ連れて来いといってくれたまえ」

十分ほどすると幸田は二人の私服に腕をとられて入って来た。だいぶ暴れたと見えて、ネクタイはなくなりワイシャツのボタンが飛んで、酒焼けした赤い胸を出している。

幸田がモーニングの裾を払って椅子に掛けるのを、局長は一種痛快そうな面持で眺めやりながら、

「おい、幸田君、猿も木から落ちるさ。芝居は大きかったが幕切れはまずかったな。