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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

いるという噂をチラリと聞き込んだから、疝気のすじはこの筋と、これで何もかも一遍に判ってしまった。何しろ、山木も印東も有明荘の住人で、むかし、巴里で皇帝と駄々羅遊び……」

「くどい。それで、結局どうしようというのだ」

「何しろ、大物すぎてさすがの松沢にも手が出せねえ。早速志摩徳のところへ持ち込むと、志摩徳はひどく乗気になって、どうでもこっちへ引ッたくってしまおうという事になった」

「引ッたくり方にもいろいろある。どんな風にして引ッたくるつもりだ」

「印東をこッちへ引き寄せて山木の水の手を切って置き、あいつの借用証書を買い集めて強制執行をかけ、厭なら実力接収と脅かして二束三文に叩いてしまおうてえのだ」

「それで、現物はどこに蔵い込んであるのか判っているのか。それがはっきり判っていなけァその芸当は出来ねえぜ」

「それだ。……多分印東もそこまでは知るまい。その辺の消息は誰よりも鶴子が通じていた筈なんだが、死人に口なしでこいつばかりはどうも」

酒月は顔をあげ、

「とめ婆の話では、鶴子は崖下の素人屋にいる花という縫子にいつもしみじみ身上話をしていたといったナ。……ひとつその娘ッ子を叩いて見るか」