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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

娘っ子は恐いね、思いつめると、何を仕出かすかわからないから」

岩井は笑って、

「素質だよ、素質だよ。下町の老舖の箱入娘や、廓の内所で育った娘なんかによくあんなのがある。むかし俺の友達がそんなのに思い付かれ、うるさがって振ったら、今晩一晩きりといって添寝をして、夜が明けた、そいつの頸動脈を剃刀ではねっちまいやがった。悪童だ……それにしても、もう捕まったかな」

踏絵は薄い唇を反らして、

「捕まらなけゃあ、わちきが密告てやる」

岩井は思わず眼を瞠って、

「へえ、何か恨みでもあるのか」

踏絵は空嘯いて、

「恨みなんかない。あまりいけ図々しいからさ」

といってるところへ、使番に案内されて村雲笑子が入って来た。銀糸の入ったお召の二枚袷の裾をしどけなく足首に絡ませ、握拳を袖にいれて弥造をこしらえている。大分底が入っているようすで、張りのある目元をほんのりと染め、足元をふらつかせながら土蔵仕立の重い引戸の前に立ってジロジロと二人の方を眺めていたが、急にキッとした唇を噛むと、懐手をしたままスラスラと二人の側に寄って来て、突っ立ったまま、凄艶な声で、

「おや、御馳走さま。それゃアないでしょう、こんなのがアメリカふうか知らないが、すこし見境いをつけておくれ。