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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

第九回

二十八、双月流の投入の事 並に脱出の公算の事

ある者は悲恋に泣き、ある者は危険なる侠気に身を溺らせ、またある者は悪念の爪をといでほしいままに跳梁跋扈する。

作中の登場人物は構想などにはお構いなく、作者の心配面を尻眼にかけ、己れの欲するままに変幻自在に行動をする。作者が謙譲なのをいいことにして、引繰り返って眼を剥いたり、横を向いて舌を出したり、今度はまた罪もないとめ婆を絞め殺したり、実にどうも馬鹿にし切った態度をとるようになった。作者としてははなはだ憤懣の情に耐えぬのであるが、何しろこれらの連中は、作者などはてんで眼中にないのであるから、いかんとも手の下しようがないのである。

閑話休題、夕陽新聞記者古市加十は、安南皇帝は日比谷公園の「鶴の噴水」の台座の下にいると一図に思い込み、この前代未聞の大特種をスクープしようと、踵で己がぼんのくぼを蹴上げるようにしながら田村町一丁目の方へ飛んで行く。そのポーズには多少の誇張があって、それによって作者の注意をひき、引続いて自分の行動を書いて貰いたいふうに見受けられるが、この小説では古市加十だけが活躍しているのではない。それどころか、これより以前、警視庁ではまたしても奇異な一事件が惹起している。