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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
ヴィドックの場合は、むかし覚えた手口を応用して、検察の辣腕をふるったというだけのことだが、この場合はそんな生優しいことではない。殺人犯人としてこれほど飛躍したのも少なく、これほど始末の悪い犯人も少ない。どのような警察官が敢然とこれを告発する勇気を持つであろうか。日ごろ死灰の如く冷静沈着な真名古も、この獅子頭のパイプを前にして、容易ならぬ煩悶の状を呈したのも、また無理からぬ次第であった。
しかし、すでにしばしば述べた如く、検察の事務を執るに当ってその冷執陰険なること、ユウゴオの「噫無情」に登場するかのジャヴェル探偵にも夢々劣らない真名古のことだから、いやしくも不足とある以上は、たとえ神といえども爬羅摘抉するのを辞する筈はあるまいと見ているところ、果して真名古は一種悽愴な面持で有明荘を立ち出でると、ここに辛辣千万な行動を開始した。
まず最初に日本橋の伊吹という洋服問屋へ行って総監の寸法帳を出させ、これを入念に書き取っている。御承知の方もあるでしょう、日本橋の伊吹というのは、東京府管内の警察関係の官服を一手で納入する問屋である。どういう結果を得たかといえば、現場の料理場の壁に残っていた上衣の鋳型彫は総監の服によって出来たものだということを確認したのである。