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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

三十三、思案投首の体の事 並に意外なる成行の事

この時、急に扉が開いて、三人の刑事を従えた秀陳が入って来た。閾際に突立って皇帝を指さしながら、厳然と宣告したのである。

「諸君、あれは、偽皇帝です!」

三十三、思案投首の体の事

並に意外なる成行の事

場面一転して、ここは永田町内相官邸、会議室の大テーブルを囲んでいるのは、内務、外務両大臣と各両次官、欧亜局長の五人。いずれも疲労困憊の色を浮かべ、頭を抱えて机にうっ伏しているものもあれば、すっかりチョッキのボタンをはずして喘いでいるものもある。そうかと思うと、椅子の中に引っくり返って大の字になっている、その膝を抱いて貧乏揺りをしているもの、てんでん思い思いに何ともいえぬ恰好をして坐っている。ドオミエ描くところの「酒宴のはて」といったダラケ切った風景だが、どうして、事実はそんなどころじゃない。

会議室の時計を見上げると、午前一時を過ぎることまさに廿分。仏国大使の乗った汽車ははや静岡へんまで来ているというのに、誘拐された皇帝の行方が皆目わからんというのだから、当局の苦慮心痛というものはまさに破竹の勢い、実に以て察するに余りあるので……。

時計の振子は正確に分秒を刻み、その音は一同の耳にはさながら轟くが如くに聞きなされる。