轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
漂う如くにフワフワと有明荘の方へ近づいて行く。
幻とも煙とも定めがたいその影は、暫時の間ヨロヨロと建物の周囲をさまよい歩いていたが、やがて大玄関から建物の中へ辷り込むと、異様に長い尾をひきながら、取っつきの階段から二階の方へ登って行く。
登りつめたところが惨劇の行なわれた鶴子の玄関。そこからずっと向うへ長い廊下が延び、その端に大きな硝子扉。その外は露台になっていて、そこに月の光があたっている。
朦朧たるものの影は、鶴子の家の扉の前でやや暫くたゆたっていたが、廊下に人のけはいのないのを見定めると、そっと扉を押し開けてその内部へ忍び入る。
鶴子が投げ出された例の大きな窓から、空の薄明りが斜めに壁の上にさしかけ、その上に二間四方ほどのほの蒼いスクリーンをつくっている。黒い影はその光を厭うように闇の中に蹲っていたが、やがて、うつむいたままで低い口笛のような音を立てはじめた。何かの合図だったのだろう、一風変った曲節の口笛の音がやむと、四角なスクリーンの中へムクムクと新たな三つのシルエットが浮かび上って来た。
闇の中の人影は、ほのかな手真似で、三つの影を自分の身近に呼び寄せると、ほとんど聞きとりにくいほどの低い声で、