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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
局長はこれを聞くと蒼くなったり赤くなったり、暫くは口も利けずに秘書官を睨みつけていたが、やがて疾風迅雷の勢いで、
「何、何、なんだと! おい、俺は今朝訓令通りの報告書を書く奴を見付けろと確かにそういったつもりだぞ。そ、それを……」
秘書官ははや生きた色もなく、
「はい、でも」
局長は机を乱打して、
「やかましい、黙れ黙れ。今更つべこべいったって何の役に立つんでえ。……それを、それを選りに選んであの変屈野郎を調査にやったと! それじゃアまるで、今朝からのわれわれの苦心をぶち壊してしまうようなもんじゃないか。……何を考えてそんな莫迦な事をしたんだ。気でもちがったのか。いえ! いって見ろ」
秘書官はどこから出て来るかと思われるような可愛らしい声で、
「あのう、御承知でもあります通り、……何といっても、刑事部では、あれが、一番やれる男ですし、……それに報告書には、せめて、真名古ぐらいの名がなければ」
局長はいよいよ猛り立って、
「おい、あんな報告書を出すのになんでやれる男なんぞ要るんだ。そんなものア阿呆にだって出来らア。名前がどうしたと。利いた風なことをいうな。