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かげおとこ
影男
江戸川 乱歩
「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页
人家には遠いし、季節はずれの畑には人影もなかった。
さきほどのトビは、獲物を期待するもののように、空に大きな輪を描いて、とびつづけていた。
ふたりの女は、かりの門をあけて、板べいの中にはいった。双眼鏡はずうっとそれを追っている。へいの中は、何の建物もなく、一面の白い砂だ。ふたりの女は、その白砂の上を、前後してこちらへ歩いてくる。
そのとき、先に立っていた年増女のほうが、何を思ったのか、いきなり走りだした。まっすぐではなく、変な曲線を描いて走った。アッというまに、砂の上に転倒した。助けを求めてもがいている。
比佐子はそれを見ると、びっくりして、そのほうへ駆けよろうとした。彼女は当然、曲線を描かないで、まっすぐに走った。そして、十歩ほど走ったとき、恐ろしい異変が起こった。比佐子のハイヒールの足が動かなくなった。白い砂の中へ、吸いこまれるように引きつけられて、歩けなくなった。
足を抜こうとして、一方の足に力を入れると、その足のほうがさらに深く吸いこまれた。双眼鏡の中に、彼女の驚きの表情がはっきり見える。だが、彼女はまだこわがってはいない。ただ驚いているばかりだ。