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にっき

日記

宮本 百合子

09 一九二三年(大正十二年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,193 字 · 131 页

青空文庫

自己に決して女だからとか、妻だからとか云う申訳は許さず、生活が曖昧な為、尊敬する人にも会えないような生活は、さらりさっと、すて切ること。

そう云う風にやって見て、なおAが私の重荷となればもう、私は遅疑することはない。心にやましいところがなければ、私は、仮令Aが、私の為と云って、死んでもおそれるところはない。そこまでに行くべきだ。そこまでに行った心の力の充実をいつも心に持ちたい。失いたくない。

芸術の大きさ、遙けさが見え、上っ調子や道楽やべたくさは忘れてしまう心持。

今の心持で見ると、去年の七月以来、私の心持は、否、結婚以来、私の心持は、妙にコンニャクを立てたようなものであったと思う。私のことだから、弾力はある。しかし、潔よく真直に立たず、ぺかぺかとゆれる。ゆれた右には母上あり、左の方にはAが在り、と云うことであったのか。ひや汗なり。

坪内先生が、作家としての修業は容易でない。落ち切らなくては駄目だから、と云われた。その言葉は忘られない。

〔欄外に〕バラをいけたコップの水をこぼす。

自分は落ち切れただろうか。常套と、習慣とを突ぬいて、地面の上に落ち切れただろうか。