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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

09 一九四二年(昭和十七年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,952 字 · 130 页

青空文庫

この頃ちゃんと着いているのはお互い様に助かります。手紙が自分で読めると、何かの時に繰り返し繰り返しみるから、書かれていることも心に残るのですが、何かの折忙しくさっと一度だけ及び腰で読まれてそれきりだと、特にこの間内は物覚えが悪かったから、度々同じことを繰り返す始末でした。手紙を読んでもらう人もよく考えて、ねっちり読む人に頼むことにします。それでもこの頃は波の間にチラチラ岩の姿を見るように一通のお手紙のところどころ拾って自分で読み返すことも少し出来るようになりましたが、それはほんの数行のことで、しかもそういう時は勝手なもので、大変贅沢な好みがあって、用事のところなどは貴重な真珠貝のように拾い上げないのだから、あなたにはすみませんわけです。泰子の耳はいいあんばいに軽くてもう治りました。咲枝さんがもう今にも生れるばかりでお腹を重がっています。寿江子は体の調子が大変によくありません。そして国男さんは神経衰弱だというのだから、私のめくら腰ぬけから始まって、満足なものは太郎一人の有様ですから、不随の家族と言ったのは本当でしょう。国男さんは時代的な理由もあって、中々難局に面していて経済的にも底をついている状態です。