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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
09 一九四二年(昭和十七年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,952 字 · 130 页
祝い日
愛するものの祝い日に
妻たるわたしは
何を贈ろう。
思えば われらは無一物
地道に渡世するおおかたの人同然に
からくりもないすっからかん。
健康も余り上々ではない。
とは云うものの
ここに不思議が幾つかある。
朝夕の風は
相当軒端に強く吹いて
折々根太をも軋ますばかりだが
つつましい屋のむねには
いつからか常磐木色の小旗が一つ立っていて
荒っぽく揉まれながらも
何やら嬉々と
季節の太陽に
へんぽんたるは何故だろう。
夜が来て
今は半ば目の見えない妻である私が
少し疲れを覚え
部屋の片隅の堅木の卓の上に
灯をともす。
焔は暖く 橙色。
憩っていると手の中に
やがて夜毎に新しく
一茎の薔薇がほころび初め
濃き紅に ふくいくたるは何故だろう。
短く長いこの年月に
私たちの見てきたことはどっさりある。
歳月の歯車から
ほき出される あれや
これや を。
何と度々
愛の誓いが反古になるのを
目撃したろう。
その醇朴さが
却って ばつの悪いほど
辱しめられるのをも眺めて来た。
けれども
幼い子供たちが その遊戯の天国で
ぞっとするほど面白く
泣き出したいほど うれしいのは