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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
09 一九四二年(昭和十七年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,952 字 · 130 页
当分これでは人足ね。でもうちはそういうことをする人がなさすぎて、どこもかしこもうず高いから、ポツポツ女中さんを助手にして、ごみ片附けは細君にとっても歓迎です。気持のよい疲れ方というものを求める気持が強いにつけ、好ちゃんがいたらどんなによかろうかと思います。元気ながら持ち前のおもいやりでいたわられながら歓談したらきっと人足仕事などを心がけないでも、もっともっと詩趣豊かにほっこりするでしょうのにね。
重い病気から回復してゆく間のこういう感情は、私として始めての経験です。あなたはきっとこの数年の間に十分お感じになっていたことでしょう。でもあなたのその時期に、私はちっ共そんなことは知りませんでした。今はそれがわかります。何にも言わずにあなたはそういう時期もお暮しになりましたね。言われてもわからなかったかしら。私の爪の真中に一本横にひどい窪みが現われました。爪が伸びてきて三月前死んだ時の線が真中まで押し出されてきたのです。チブスをやってもこんなことはないそうです。「ひどかったんですなあ」と先生が感服致します。賀川豊彦でなくても死線が現われました。
あなたがひどくお悪かったあと、髪がうすく軽くなって、向い会っていると頭の地がすけてみえて本当に吃驚したことがありました。