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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

二男坊は大学を出たということだったが、マンは、高慢ちきで、鼻眼鏡をかけたこの男を好かなかった。いく度、強硬に督促されても、拒絶した。すると、盆踊りの夜、この男から、寺の裏の杉林にひきこまれ、おさえつけられたのである。青白い顔なのに、恐しい力だった。すんでのところに、提灯をつけて、誰かが通りかかり、あやうく難をのがれることができた。

家に帰って、このことを父に報告すると、善助は、「馬鹿たれが。そんなことはこれからもある。よう覚えとけ」と、女の護身法を教えてくれた。

専売局の「鬼」に組みしかれたマンの頭に、ぱっと、そのときの父の言葉が浮かんだ。マンは、もう夢中だった。しかし、声は立てなかった。歯を食いしばり、眼だけを怒りに燃やした。男の股間にさしこまれたマンの右手に、あるかぎりの力がこめられた。異様な叫び声を発した男の顔色が、スウッと大根葉色に変った。はげしい痙攣をおこすと、「鬼」はぐったりとなって、そこへ倒れた。

マンは、はね起きた。飛びすざった。顔が熱く火照り、動悸がはげしく打つ。肩で大きく息をしながら、見ると、暗い土間に、松の大木をころがしたように、男は横たわっている。