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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

この十月八日が、約束の日じゃったのに、ロシヤは、満洲から撤兵するどころか、どんどん、兵隊を南進させよる。あっちは、もう、日本を馬鹿にして、戦争する腹じゃ。それでも、日清戦争のことがあるもんじゃけ、用心して、日本の様子を探っとるんじゃ。それに、女を使うちょる。こないだは、長崎で、女の露探が捕まえられたが、あの女たちも怪しいぞ」

「そういやあ、女が、なにも、巌流島までも行って、関門海峡を見物せんでもええなあ」

老人仲仕も、新之助の意見に、同感の意を表した。

日露の風雲は、ようやく、急を告げつつあった。国内には、開戦論と非戦論とが沸騰していた。三万七千人の会員を擁する全国青年同志会が、露国膺懲の建白書を、桂首相に提出するかと思うと、非戦論者である堺利彦、内村鑑三、幸徳秋水の三人が、「万朝報」を去るというような事件が、この関門地方をも騒がしていたのである。旅順の日本人は引き揚げを開始し、この地方に帰って来た人もあって、

「ロシヤは、旅順に、大層もない要塞を築きよる。どうで、戦争はまぬがれん」

と、決定的に強調していた。

山下組の仲仕たちも、国の一大事に、無関心では居られない。